サーフィン

小さな筐体、大きな海

【Genelec】8010A【スピーカー】
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波の音は、なぜこれほどまでに私たちの心を惹きつけるのでしょうか。それは、ただの音だけでなく、そこに自然音響の多様性が漂っているからかもしれません。

寄せては返す波のリズム、砂浜や小石を転がす音、風の流れ、そしてそれを聴く人の心のありようによってその表情は次々と姿を変えます。波の音は、その表情を幾度となく変えてゆきます。この多様性は、スピーカーという媒体を通して再生されることで、さらに面白みを増します。

私もまた、波の音を愛する一人として、いくつかのスピーカーでその音を聴き比べてみたことがあります。そして気づかされたのは、それぞれのスピーカーが持つ「個性」と、そこから生まれる新たな波の音の世界でした。

波の音をスピーカーで聴くという行為は、一種の「内省」作業と言えます。元の音源をいかに忠実に再現するかという共通の目的を持ちながらも、各スピーカーはその設計思想や技術的特徴によって、全く異なる解釈を提示します。

あるスピーカーは、波が砕ける瞬間の鋭さを際立たせ、別のスピーカーは、ウミネコの鳴き声に空の広がりを描き出します。中には、まるで自分が波打ち際にいるかのように、海に包み込まれるような音場を作り出すものもあります。

そうした多様な音の中から、私が特に心惹かれたのは、GENELECの「8010A」というフィンランドのスピーカーでした。もちろん、これは個人的な好みに過ぎません。しかし、このスピーカーの音は、私の心に深く響く「何か」を持っていたのです。その理由は大きく3つあります。

まず、音色です。8010Aが再生する波の音は、聴くたびに「ああ、これだ」と思わせてくれました。波が砂浜を優しく撫でるような繊細さ、潮が引いていくときの余韻。音の一つひとつが、心を通り抜けていくように感じられました。その音色が、忠実であるがゆえ、聴く人の感情に寄り添うような、自然で素直な音でした。

次に、サイズ。約19センチという驚くほどコンパクトな筐体からは想像できないほど、豊かなサウンドを放ちます。デスクトップの片隅に置いても邪魔にならず、省スペースでも本格的な音の響きを楽しめる。そのギャップもまた、魅力の一つでした。

そして最後に、デザインです。ダイキャスト・アルミニウムのボディは、まるで波に洗われた玉石のよう。無駄のないシンプルな形状でありながら、マットな質感とダークグレーの色合いが、静謐な美しさを放っています。それは、ただの工業製品ではなく、自然と調和するオブジェのようにも見えました。

波の音を愛する私が、たどり着いたGENELEC 8010A。これは、単純な製品との出会いではなく、「自宅で聴く波の音」を再定義する機会となりました。スピーカー選びは、しばしばスペックや価格で語られがちですが、本当に大切なのは、その音が自分の心にどう届いているかだと思います。

私たちは、誰かにとっての「良い音」を追い求めるのではなく、自分の感性と向き合い、「いいな」と納得できるものを選ぶべきです。8010Aが教えてくれたのは、そうした「自分の感性」を大切にすることの喜びです。

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