サーフィンを始めたばかりのビギナーは、まさに「変数」の海に放り込まれたかのようです。どのサーフボードを選べばいいのか、どの波に乗ればいいのか、どうすればバランスを保てるのか。そのすべてが手探りで、わからないことが圧倒的に多いのではないでしょうか。
サーフィンにおける「変数」は、大きく分けて環境要因と人的要因の2つに分類されます。環境要因は、サーフィンの波質や海洋・気象条件に関する主要な要素です。これは我々ではコントロールできません。人的要因はサーフィンのパフォーマンスや体験に影響を与える個人の要素です。個人スキル、使用する道具などが挙げられます。
変化要因が多いと成功体験や内省の評価ができません。何が成功に繋がったのか、何が問題を引き起こしたのかを特定するのが困難になります。何が偶発的で、何を自分でコントロールできたのか。それを切り分けるためには、「定数」を設定する必要があると私は考えています。
サーフィンにおいて「定数」を設定するとは、自分なりのルールを意図的に定める行為を指します。自然の波では、波の形や速度、ブレイクのタイミングが常に異なるため、反復練習することは極めて困難です。
一例として、サーフスタジアムの波であれば波に再現性があるため、反復練習が可能となります。これも「定数」設定の一つです。なかなか人工波の施設へ足を運べない方であれば、たとえ波がイマイチでも特定のサーフポイントに通い続けることで新たな発見があるかもしれません。
また、サーフボードは、その長さ、幅、厚み、ロッカー、コンケーブ、フィン、レール、テールなど、様々な要素が複雑に絡み合い、乗り手のライディングスタイルに大きな影響を与えます。波のコンディションに合わせて複数の異なるモデルを所有することは、当然の選択です。しかし、その変動要因の多さからかえって迷いが生まれることもあるでしょう。
例えば、サーフボードの「テールの形」を同じにすることは、体感的なフィーリングやボードコントロールの感覚を得るための「定数」を固定する試みです。新しいサーフボードの購入を検討する際、「長さ」という変数が固定されていることで、その他の要素(ロッカーやコンケーブなど)の変化にのみ焦点をあてることができます。
このように雲をつかむような選択肢の中から、あえて特定の領域に焦点を絞り込むことで、より深い洞察を促す行為ともなります。しかし、定める変数を見誤ると大きな効果が得られなかったり、サーフィン上達の妨げになる可能性もあります。
現在、私が具体的に「定数」として大切にしているものは下記の3つ、
「身体的フォーム(基本動作)」、「サーフギア」、「サーフボードの長さ」です。
1.「身体的フォーム(基本動作)」についてです。私は陸での動作(癖)が、サーフィン中に如実に現れると考えています。自分の思うサーフィン中に取りたい動き(基本フォーム)を「定数」として設定しています。自分が取りたいフォーム(定数)を体に叩き込むために、あえて海には行かずにサーフスタジアムへ行き、環境の「定数」化を試みた時期もありました。
しかし、この自分が取りたい動きが正しいかどうかはわかりません。仮に、この自分が取りたい動きが間違っていた場合、さらに、それを体に染み込ませてしまっている場合、その状態を修正することは骨の折れる作業だと思います。この動作フォームの「定数」設定は、自分にとってある意味「運試し」のようなものです。
2.「サーフギア」については、スティーブ・ジョブズを参考にしています。ジョブスは黒のタートルネックを複数所有し、「自分のユニフォーム」として一貫したスタイルを確立させました。私もサーフギアのブランドや色を「定数」と置いています。最大の理由は、意思決定の疲労を減らすためです。フィンプラグやデッキパッド(トラクションパッド)などのブランドに一貫性を持たせることで視覚的満足感を得ています。
3.前述の通り、サーフボードは様々な要素が組み合わさっています。そこで私はサーフボードの「長さ」の定数化を試みています。見た目的に比較しやすく、長さが同じであれば、パドルのストローク長や重心位置、波待ち時の安定感など、根幹となるサーフィンの基本動作の感覚を再現しやすくなります。また、サーフボードの違い(例:ノーズの浮力、レールの入り方など)に焦点を合わせやすくなります。例えば、同じ長さでも幅が広いボードは安定性が高く、ロッカーの強いボードは急な波でのターン性能が良い、などといった具体的な違いを体感しやすくなります。
この「定数」化はあくまでサーフボードの特徴を捉えやすくし、自分自身が特定の長さに特化した感覚を掴むことを目的としています。しかし、「長さ」にこだわることで、波のコンディションへの対応幅、波に乗れる回数、新しい体感の機会損失も同時に失っていると思います。
「定数」を定めてよかったことは、自分で責任をもって判断を下し、その結果、ちゃんと失敗を感じ取ることができたことです。自分の判断が間違っていた、と自覚できたことは自分にとって大きなプラスでした。「定数」を決めることは、不確実性さへの挑戦です。
サーフィンで学んだ「定数」設定を自分のビジネスシーンにも落とし込んでいきたいと思います。