カセットテープの音が好きです。1980年代、音楽を聴くために普及したカセットテープには、「ワウフラッター」というものが存在しました。これは、テープを再生する回転速度がわずかに不均一になることで生じる音程の揺らぎのことです。
聴覚的には、音が不安定にブレたり、微妙に伸びたりして聞こえます。当時のオーディオメーカーは、この揺らぎをいかに減らすかに心血を注ぎました。現代のデジタル音源は、この揺らぎがほとんどなく、限りなく正確な音を再現できるようになりましたが、なぜか私たちはカセットテープ特有の不完全な音に、懐かしさや温かさを感じることがあります。それは、少しばかりの不完全さが、音に独特の表情を与え、聴く人の心に深く響くからです。
このワウフラッターのような「心地よい揺らぎ」は、自然界の様々な場面で存在します。それは「1/fゆらぎ」と言われます。これは、規則正しさと不規則さが絶妙なバランスで混ざり合ったリズムのパターンで、私たちを深くリラックスさせてくれると言われています。
ろうそくの炎の揺れ、小川のせせらぎ、木漏れ日、そして波の音。これらすべてが「1/fゆらぎ」を持っていると言われています。特に波の音は、沖で砕ける大きな波の音から、砂浜を優しく洗う小さな波の音まで、二度と同じ波が来ない「一期一会」のリズムで私たちの心を解き放ち、癒してくれます。
私たちは日々の忙しい生活の中で、完璧で規則正しいものを求めがちです。しかし、完璧さだけが私たちを幸せにするわけではありません。カセットテープのワウフラッターに温かさを見出したり、波の1/fゆらぎに心が癒されたり、人は不完全な「揺らぎ」の中にこそ、本当の豊かさを感じることができます。
もしあなたが少し疲れていると感じたら、完璧を目指すことを少しだけやめて、近くの自然に足を運んでみましょう。風にそよぐ木の葉の音、小川のせせらぎ、そして波の音に耳を傾けてみてください。不完全なものが持つ優しさや力強さに気づき、心が満たされていくはずです。