ある夜、酔っぱらいながら自宅で料理をしていたときのことです。鶏肉を切ろうとして、誤って自分の左手の薬指をざっくり切ってしまいました。止血を試みたものの、翌朝になっても血が止まらず、慌てて近所の病院へ駆け込みました。
院長は落ち着いた手つきで処置をしてくれました。その最中、私の日焼け跡に気づいた院長が「サーフィンされるんですか?」と声をかけてきました。聞けば院長自身もサーファーで、「夏の鵠沼海岸の人の多さは異常ですよね。」と、笑いながら話は盛り上がります。
当時、都内での暮らしにどこか馴染めず、孤独を感じていた私の心に、久しぶりにあたたかい風が吹いたのを今でも覚えています。それは雲の上の存在である“医者”ではなく、同じ海を愛する“ひとりのサーファー”でした。
サーフィンというたったひとつの共通点が、立場も年齢も職業も超えて人をつなぐ。あの日の小さなケガが、そんな当たり前のことを改めて教えてくれたのです。
もっとも、酔っぱらいながらの料理は、二度とごめんですが。