サーフィン

サーフィンの尺度

私たちが日々目にするデータや評価、数値の数々。統計、アンケート、成績、ランキング、時間、金額…あらゆる情報が「数」で表されます。でも、ちょっと待ってください。その“数”、本当にその使い方で合ってますか?数字があるからといって、何でも足したり平均を出したり、順位をつけたりしていませんか?実は、数には「使い方のルール」があるんです。

このルールの正体は「尺度(スケール)」と呼ばれる考え方です。ひとことで言えば、「そのデータって、どこまで比較・分析していいものなのか?」を決めるための枠組み。しかもこの尺度、正しく理解しておかないと、データの解釈を大きく間違えることもあります。けれど逆に言えば、尺度を正しく使えば、情報をもっと正確に、効果的に活かすことができるのです。

尺度は大きく4つの種類に分かれます。今回はサーフィンを例にしてみます。

最初は「名義尺度」。
これは分類のための尺度です。サーフボードの種類(ショートボード、ロングボードなど)や、ウェットスーツの種類(フルスーツ、スプリングなど)、選手の国籍(日本、アメリカ、オーストラリアなど)がこれにあたります。ここで使われる数字は単なるラベル。たとえば「日本=1、アメリカ=2」としても、「1が2より上」という意味は一切ありません。ただの名前の代わりなのです。

次に「順序尺度」。これは名前だけでなく、「並び」や「優劣」も表す尺度です。たとえば「初心者向け」「中級者向け」「上級者向け」という波のレベルや、「1位、2位、3位」といった大会の順位がそうです。でも注意すべきは、順位はついてもその差の“幅”は不明ということ。1位と2位の差が僅差なのか大差なのか、数字ではわかりません。

3つ目は「間隔尺度」。これは順序があるだけでなく、「間隔の大きさ」が等しいとみなせる尺度です。たとえば「気温(摂氏)」や「大会の得点(10点満点中8点など)」はその例です。ただし、ここでも落とし穴があります。「0」が絶対的なゼロを意味しないということ。10℃と20℃の差は10℃でも、「20℃は10℃の2倍暖かい」なんてことは言えません。なぜなら、0℃は「温度がない」ことではないからです。

最後が「比例尺度」。これは最も情報量が多く、最も自由度の高い尺度です。絶対的なゼロが存在するため、比率も計算できます。たとえば「波に乗った時間(10秒、20秒)」「ライディング距離(100m、200m)」「サーフボードの長さ(6フィート、7フィート)」などがこれにあたります。ここでは、「20秒は10秒の2倍長い」といった比較もOKです。

さて、こうした尺度を理解することで、何が変わるのでしょうか?例えばサーフィンの大会で「1位」と「2位」の差(順序尺度)と、「波に乗った時間(秒)」(比例尺度)では、扱い方がまったく違います。同じように数字が並んでいても、それをどう使うべきかは尺度によって変わってくるのです。

この話、実はサーフィンに限ったことではありません。ビジネスの現場、教育、マーケティング、日常の意思決定…。私たちはあらゆる場面で、無意識のうちに数値に意味を見出し、解釈しています。しかし、その尺度を誤ると、思わぬミスリードにつながることがあるのです。

たとえば、名義尺度である血液型を1, 2, 3, 4と番号づけして「平均血液型は2.5」とか言ってしまう。あるいは、満足度アンケートの「満足〜不満」を1〜5の数字に置き換え、平均を出して「3.5だから“まあまあ”の満足度だ」と結論づけてしまう。でもこれらの数字には、そもそも“足したり割ったりしていい性質”がないのです。さらには、気温を「今日は10℃、明日は20℃。だから2倍暖かい」なんて言ってしまう。温度には絶対的なゼロがないから、その比較は成り立ちません。

尺度を間違えると、判断も間違います。判断が間違えば、行動もずれます。そして、取り返しのつかない誤解を生むこともあります。だからこそ、データに触れるときは、その「数字がどの尺度に属しているのか?」をまず見極めることが大切なのです。

言い換えれば、数字を扱うときの“言葉遣い”のようなもの。それぞれの数字に、それぞれの意味と扱い方があります。丁寧に見極めることが、よりよい判断と行動につながるのです。

だからこそ私たちは、数字を見るときに「それはどの尺度なのか?」を問い直す必要があります。数字の種類を見極め、その意味と限界を理解すること。それが、正確な解釈の第一歩です。

しかし、すべてを数字で表せるわけではないことも心に留めておくべきです。尺度を正しく使うことは大切ですが、「尺度に乗らない価値」も存在します。

たとえば、サーフィン。「波に乗った回数」や「ライディング距離」では決して語りきれない、その瞬間の高揚感や、自分だけが味わう“最高の波”。それは、どれだけ精密なデータを並べても表現しきれないものです。数字で語れないものがあるからこそ、数字で語れるものは、正しく語りたい。そのために尺度という「ものさし」を知っておくことが、サーフィンの解像度を上げてくれるのです。

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