サーフィン

テイクオフとマインドフルネス

現代社会は、ストレスと不安の波が押し寄せています。私たちは常に何かに追われ、「今、この瞬間」に集中することは難しいです。最近では「マインドフルネス」という言葉を耳にする機会も増えました。

マインドフルネスとは、「今、この瞬間」に意識することです。一般的に「マインドフルネス」という言葉を聞くと、静かな瞑想を思い浮かべるかもしれません。しかし、私はこの「マインドフルネス」を深く体感できる効果的な実践の場こそが、サーフィンのテイクオフだと考えます。

「マインドフルネス」は「瞑想」とも解釈されます。サーフィンのテイクオフを通じて集中することを、ここでは「テイクオフ瞑想」とネーミングすることとします。サーフィンをしているとき、テイクオフの一連の動作の中では、仕事やプライベートの悩み、不安が入り込む余地はありません。サーフィンは変動性のある自然環境を相手にし、意識を集中せざるを得ない状況が半強制的に作り出されます。この必然性が、マインドフルネスの実践において、強力な効果を生むと考えます。なぜなら、マインドフルネスの実践の先には、ストレスの緩和と精神的なリフレッシュをもたらすからです。

水平線まで見渡せる開放的な海岸では天候によって色相が変化します。まるで人で言うところの表情です。生き物のように呼吸し、うねりを発生させ、波を海岸まで運んでくれます。耳を澄ませば、鳥の声や魚が水面をはねたりする生命の音が聴こえてきます。波も囁きから咆哮まで様々なメッセージを訴えかけてきます。

サーフィンのトップターンからは華麗な水しぶき(スプレー)が生まれます。これは波間での描き奏でるアートです。サーフボードから伝わる波の推進力は気持ちを高揚させ、波の独特なスピードとパワーは身体に刻まれます。風の優しさや厳しさは心を揺さぶります。波が砕けた瞬間、潮の香りが鼻腔をくすぐります。五感を通した情報は、頭で判断とするいうよりは身体感覚にダイレクトに届きます。波の感覚を受け入れることは少し諦観的です。

まず、テイクオフの一連の動作は、沖合のうねりを察知することから始まります。そのうねりがどのようなブレイクに変容していくかを想像する必要があります。無駄な力が入らないことが重要で、集中とリラックスが融合したような状態が理想的だと考えます。波に合わせて身体を反応させるには、意識的な集中と、無意識の身体感覚によるバランスが重要です。

それぞれの体のパーツについて検討していきます。体幹や腹筋、骨盤底筋群などは体の中心(軸)として考えられます。上半身では、目線、顎の位置、肩甲骨、肩、腕、手などが挙げられます。手は例えるなら「オール」ですが、それぞれの指の力加減、角度、向き、掌の形などでも個性がでます。下半身も同様、例えば足の揃え方でテイクオフの滑り出し方に変化があります。

ほどよく力が抜けている状態が、波のエネルギーを最大限に受け入れ、スムーズなテイクオフにつながります。波が背中を押してくれるときは、自然と一体できた多幸感が全身を駆け巡ります。波に置いて行かれたときは、一般的な「悔しい」という感情とは異なる、子供との追いかけっこに興じるような遊び心に満ちた感覚に包まれます。

この「テイクオフ瞑想」は単なる波に乗る行為を超え、意識の深淵へと誘う「今」という一点に集中する、まさに瞑想的な状態です。「テイクオフ瞑想」を通して得られるのは、単なるストレスの緩和や精神的なリフレッシュだけではありません。この集中と解放のサイクルを繰り返すことで、私たちは日常生活においても、「今、この瞬間」に意識を向け、目の前の課題に集中する能力を高めることができます。

自分のコンディションは忙しい日々で見過ごされがちです。予期せぬ状況にも動じることなく、柔軟に対応する力、そして何よりも、自分自身の内面と向き合い、心の平安を見出す術を体得することができるのです。

しかし、実際に海に足を運んでも、天候が左右し、サーフィンに適した波がいつもあるわけではありません。また、道具を揃えたり、一定のレベルに達するまでスキルを磨く必要があります。それでも、日々の悩みや不安に囚われている人には、一度サーフィンを体験してみることをオススメします。

たとえ1回きりのサーフィンで楽しさがわからなくても、少しだけ続けてみてください。その先にはきっと何ものにも代えがたい喜びが待っているはずです

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