先日、サーフィン中にコンタクトレンズが外れてしまいました。裸眼では一切、波の状況が見えませんでした。「目」は大事だと改めて実感しましたので、今回は物事を捉える多様な視点としての「目」についてお話したいと思います。
多様な視点として有名なのは、「虫の目」、「鳥の目」、「魚の目」でしょう。「虫の目」は、ミクロな視点で細部や局所に焦点を当て、深く掘り下げて物事を分析します。「鳥の目」は、物事の全体像をマクロ捉え、大局的に状況を把握する視点です。「魚の目」は、時代の潮流、市場の動向、人々の関心の変化など、時間とともに変化する「トレンド」を読み解く、流れを読む視点です。最近では、これらに加えて「コウモリの目」という視点も知られるようになりました。これは、逆さの視点から逆転の発想を得たり、常識を疑って異なる視点を持つ考え方です。
私は趣味のサーフィンを通して、「台風の目」をしばしば意識します。ここからは「台風の目」から新たな視点を探る試みです。「台風の目」は、発達した台風の中心付近に見られる、雲のない穏やかな領域です。周囲の猛烈な暴風が渦を巻いて吹き込む一方で、中心部分では下降気流によって雲ができにくく、まるで「目」のように観測されます。勢力の強い台風ほど、この「目」がはっきりと現れる傾向があります。台風が広範囲にわたって天候を左右するように、日常でも膨大な情報が、ときに多くの人たちの生活や社会情勢を大きく動かすことがあります。
私たちは、台風の接近が予測されれば、最新の気象情報を確認し、飛ばされやすいものを固定したり、停電に備えたり、あるいは避難をしたりと対策を講じます。そして、台風に巻き込まれた際には、身の安全を確保し、過ぎ去るのを待つはずです。この現実の台風への備えは、まさに「情報の台風」に振り回されないための実用的なスキルの1つです。
その一方で、自分が「台風の目」の中心にいる場合、その周囲が暴風域であることには気づきにくいものです。これは、特定の権力者(「裸の王様」のような存在)の意思決定によって、私たちの冷静な判断が惑わされ、感情を揺さぶられ、振り回されてしまう状況を示唆しています。権力の中枢にいる者が、自らの影響力の及ぶ範囲や、その周囲の混乱に気づけないのは、いくつかの要因が考えられます。それは、意図的な情報統制(プロパガンダ)が働いたり、既得権益を守ろうとする保身が働いたり、あるいは、周りの人間がイエスマンばかりになっているケースです。
中心にいるがゆえ、外側の激しい動きが見えにくくなる「台風の目」の特性が、こうした人間の心理や組織の構造にも当てはまるのではないかと思います。どんなに振り回されそうになっても、私たちは「情報」や「権力」の影響力に常に意識的であるべきです。台風の動向を注意深く観察するように、その背後にある意図や潜在的な影響を見定める「危機管理力」を養う必要があります。
「台風の目」という自然現象は、私たちにとって「事前対策」「冷静な判断」「自戒」という3つの重要な気づきを与えてくれます。あなたにとっての「台風」(課題や困難)が近づいていると感じたら、できる限り早めの準備を行いましょう。嵐の中にいても、中心の「目」が穏やかであるように、状況に感情的に流されず、落ち着いて本質を見極めることが大切です。
もし、自分がリーダーとして重要な決定を下す時や、プライベートが順調に進んでいるときは、知らず知らずのうちに「台風の目」にいるかもしれません。このような状況では、周囲の状況が見えにくくなることを念頭に置き、客観視できるよう努めることです。これらは、日々の生活におけるあらゆる「台風」を乗り越えるための、自然がくれた「羅針盤」となり得るでしょう。
台風は甚大な被害をもたらすことがありますが、必ず過ぎ去るものです。その後に訪れる晴天とビッグウェーブは、サーファーにとっては幸福を運んでくれているとも言えるでしょう。これまで、「目」という視点から物事を多角的に捉えてきました。しかし、サン=テグジュペリの不朽の名作『星の王子さま』にあるように、「大切なものは、目に見えない」という真理もまた、心に留めておきたいものです。