茅ヶ崎で生まれ育った私にとって、「赤とんぼ」はただの童謡ではありません。作曲家の山田耕作も茅ヶ崎に住んでいたという縁もあり、この曲は故郷の夕焼けの海を呼び覚ます、かけがえのない一曲です。
特に心に残っているのは、夕暮れ時のサーフィンです。日が暮れ始める頃、茅ヶ崎の海岸に響く防災無線から流れる「赤とんぼ」のチャイムは、まるで一日が終わる合図のように、あたり一面にゆっくりと溶け込んでいきます。波に揺られながらサーフボードに跨っていると、寄せては返す波の音と、ホーンチャイムから流れるどこか物悲しい旋律とが、茅ヶ崎海岸と空に反響しあい、心に静かに染み入ります。
このチャイムが鳴り響くときには、一日が終わる寂しさと、この瞬間が永遠に続いてほしいという願いが同居しています。夕焼けに染まる海と心に染み入る光景が重なり、『赤とんぼ』という曲は、私のかけがえのない故郷の記憶として心に刻まれています。
この曲が持つ郷愁の力は、ジャズサックス奏者でミジンコ研究家という異色の経歴を持つ坂田明氏のカバーからも感じられます。ジャズ特有の自由な音色でありながら、彼の奏でる「赤とんぼ」も、不思議と茅ヶ崎の夕焼け海の情景が目に浮かびます。さらに、「家路」という曲を聴くと、サーフィン後の黄昏の帰り道を想起させ、よりノスタルジーな気分に浸れます。
あなたにとって、この「赤とんぼ」のように、特定の景色や音と結びついた特別な一曲はありますか?忙しい日々の中で忘れかけていた、心を揺さぶるあのメロディーに耳を傾けることで、あなただけの温かいノスタルジーが、日常の中に再び灯るかもしれません。