サーフィン

徳川家康に学ぶオフザリップの心得 〜啐啄同時の極意〜

徳川家康は、戦国の乱世を生き抜き、江戸幕府を開いた戦略家として知られています。そんな家康が人生の指針とした言葉の一つに「啐啄同時(そったくどうじ)」があります。これは禅の言葉であり、もともとは雛鳥が卵の殻を破って生まれる瞬間を表すものです。

「啐(そつ)」は雛が内側から殻をつつくこと、「啄(たく)」は親鳥が外側から殻をつつくことを意味します。雛が「今だ!」と内側からつついたその一瞬に、親鳥が応じて外側からつつく。まさにその絶妙なタイミングが合致してこそ、命は誕生するのです。どちらかが早すぎても遅すぎても、生命は失われてしまいます。

徳川家康は、この「啐啄同時」の精神に、人生や戦の要諦を見出していたと言われています。時期尚早の行動は失敗を招き、逆に動きが遅ければ好機を逃す。だからこそ、機が熟すのをじっくりと見極め、「今こそ」と判断したその瞬間に迷わず動く。この呼吸こそが勝敗を分けると、家康は考えていたのです。

私は「啐啄同時」の考え方は、サーフィンにも適用すると思います。特にこの“瞬間の一致”を強く問われるのが、「オフザリップ(当て込み)」と呼ばれる技を行う場面です。波がブレイクする一瞬に、サーフボードをトップに当て込む。一瞬でも早すぎれば波のパワーを外し、遅れれば波に置いて行かれてしまう。まさに、波の「啄」に対し、サーファーが「啐」で応じる技といえるでしょう。この技が決まるとき、波とサーファーのリズムは完全に一致しています。その瞬間の“間合い”を見極める感覚こそ、啐啄同時の極意です。

サーファーは常に海を観察し、波の周期や大きさ、風の向き、潮の流れといった変化を読み取っています。一見無秩序に見える海のリズムの中に、自らタイミングを合わせる想像力が求められるのです。そして、波の動きと自分のスピード、身体の動きが一致するタイミングで、当て込めれば自然と板は返ります。バッチリなタイミングでオフザリップが決めれば、水しぶき(スプレー)が大きく舞い上がります。これはサーフィンの美しさを象徴する一つでもあります。

さらに、この考え方はビジネスの場面にも深く関わっています。たとえば、顧客のニーズが芽生えはじめた「内側(顧客)からの兆し」に対して、企業がタイミングよく「外側からのサポート」を行えば、成約率が高まります。しかし、アプローチが早すぎても押しつけになり、遅すぎれば他社に機会を奪われてしまいます。状況の変化を見極め、絶妙なタイミングで行動する力が求められるのです。

また、人材育成の場面においても同様です。部下が「学びたい」「成長したい」「自分でやってみよう」と内側から殻を破ろうとしているとき、上司が適切なタイミングでアドバイスを提供する。その人材の成長のスピードは上がります。もしタイミングがズレれば、やる気を損ない、成長の機会を逃してしまうかもしれません。このように、「啐啄同時」は現代のビジネスにおいても効用的な知恵です。

波に乗るサーファーのように、日々の変化を察知し、適切なタイミングで決断し、行動する力が求められています。徳川家康のように、機を見て動く心構えを持つことで、私たちの人生もまた、波に乗って前進していけるのではないでしょうか。

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