Innner Current サーフィン

アナと蜂の女王

今年の5月初旬、疲れを癒やすために箱根の温泉を訪れました。駐車場近くの大きな穴の中から一匹のスズメバチが現れました。見かけたのはおそらくキイロスズメバチだったと思います。そのとき、こんな言葉を思い出しました。

「キイロスズメバチが穴に巣を作る年は、台風が弱い」

もちろん、私の見間違いでオオスズメバチだった可能性もあります。(オオスズメバチは地中に巣をつくります。)今回の出来事は、穴が自然の兆しを読み解く入口となりました。

陸ではアリやモグラが地下に複雑な空間を築きます。植物の根もまた、地中へ潜り込みながら水や養分を吸収します。穴を掘るという行為は、環境の変化を読み取り、そこに適応するための知恵です。海の底もまた、穴だらけの世界です。貝やエビ、カニといった底生生物は、海底に巣穴を作ります。

そして私たち人間もまた、穴を掘ることで文明を築いてきました。温泉、トンネルあるいは埋蔵金。(だからこそ、私はジャック・ベッケルの映画『』が面白いと思えるのかもしれません。)そして現在では、「燃える氷」とも呼ばれる海底の「メタンハイドレート」も、その延長線上にあるように思えます。

「キイロスズメバチが穴に巣を作る年は台風が弱い」--これは民間伝承です。自然観察の蓄積から生まれたものだと思われます。キイロスズメバチは木の枝、軒下、壁の隙間、地中など、多様な場所に巣を作る柔軟性を持ちます。大雨のときには地中の巣が浸水しやすいため、台風勢力が強い年には高い場所を選ぶという経験則に基づく考え方です。

実際には、ハチが未来の台風を予知するというより、春から初夏の雨量・湿度・地表環境といった“目の前の条件”に基づいて営巣場所を決めていると考える方が妥当かもしれません。その年の春の気候傾向が、結果的に夏以降の台風傾向と連動することもあり、“当たっている”ように感じられるのではないでしょうか。いずれにせよ、こうした言い伝えは科学では検証されていない領域を扱っています。

台風は多くの場合、災害として記憶されます。1959年9月の伊勢湾台風は、記録的な高潮と暴風雨をもたらした、日本最大級の台風災害です。この災害を契機に、日本では災害対策基本法の制定や防潮堤整備など、防災対策が大きく強化されました。

一方で、台風を待ち望む人たちも存在します。水不足に悩む農家にとっては恵みの雨であり、漁師にとっては魚が集まるきっかけになることもあります。台風は破壊だけでなく、海をかき混ぜてもいます。それは水温を調整し、水不足の解消や生態系の維持に貢献しているという見方もあります。私たちは自然界の絶妙なバランスの上で生かされているのかもしれません。

サーファーの間では、台風によって生まれた波を「グランドスウェル」と呼びます。普段では考えられない大きさと力を持つその波は、サーファーにとって特別な意味を持ちます。

ある台風の翌日、私は海に向かいました。岸から見ても巨大さが一目で分かる波を前に、それでも海に入ることを選びました。波に乗った瞬間、身体はこれまで体験したことのない速度を感じました。トンビが急降下するような鋭い加速です。これは、恐怖心を乗り越えた先にある感覚でした。

しかし、台風の波は常に恩恵を与えるわけではありません。波に押し返され続けて体力を使い果たして何もできなかった日、岸に戻れずどんどん沖に流された日、テトラポットに血だらけでよじ登った日、波に巻かれてなかなか浮上できなかった日。人間の力が自然に比べてあまりに小さいことを身をもって実感しました。

台風は毎年訪れます。それは変えられない事実です。台風は不幸を招くか、福を招くか。その答えは、私たちの受け止め方次第です。自然は「穴」という形で私たちに問いかけます。そんなことを、一匹のスズメバチが教えてくれました。

 

 

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