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例え話をしよう

波は昔からさまざまな比喩に使われてきました。もっとも身近な例えは「波に乗る」という表現でしょう。もちろんサーフィンだけの話ではありません。「波に乗る」は時代の流れや世の中の風潮をうまく捉え、自分の実力以上の成果を上げることを意味します。

興味深いのは、異なる分野で活躍する人たちが、人生や勝負を語る際にしばしば「波」を持ち出すことです。

1人目は、将棋界の羽生善治さんです。著書「羽生善治の思考」の中で、勝負の流れをサーフィンに例えています。

「波はつくれないが、乗ることはできる」

流れに乗るために基礎力を蓄えた上で、波の力を利用することを考えています。

2人目はサブカルチャー界の帝王、みうらじゅんさんです。著書「さよなら私」の中で人生観をサーファーに置き換えています。

「人は人生という波に乗っているサーファーです」

波にうまく乗れなくても次につなげる姿勢が、経験であり、努力であるといいます。

3人目は村上春樹さんの「海辺のカフカ」です。

「サーフィンというのは、見かけよりもずっと奥の深いスポーツなんだ。」

自然の力に逆らわないことを、サーフィンを通して人生の比喩として語られます。

 

おそらくサーフィン経験がなくても、これらの比喩の趣旨は伝わるでしょう。

しかし実際に海へ入り、サーフィンを経験すると、これらの言葉の重みはさらに深度を増します。

波を待つ時間の長さ。
自然の前での無力感。
思い通りにならないもどかしさ。
そして、波に乗れた瞬間の説明しがたい高揚感。

そうした体験を身体で知ったとき、比喩表現の解像度が一気に上がりました。

私自身、サーフィンを通じて「たとえ話」の捉え方が変わりました。

 

私にとって、その変化がもっとも顕著に現れたのはラブソングでした。正直に言えば、以前の私は女性ボーカルの恋愛ソングがあまり好きではありませんでした。女性が男性を想う歌として聴いていたため、自分の人生感覚と結びつかなかったからです。

ところが、サーフィンを始めてから聴こえ方が変わりました。ある日、歌詞に出てくる「君」を「波」に置き換えてみたのです。すると驚くほど自然に心へ入ってきました。

会いたくて仕方ない。

来るかどうかわからない。

思い通りにならない。

長い時間待ち続ける。

うまくいかなくてもまた向かう。

理屈ではなく惹かれてしまう。

これらは恋愛の感情であると同時に、私が波に対して抱いている感情でもありました。私はサーフィンを通じて、恋愛感情と似た構造を身体的に気づいたのではないかと思います。ラブソングは男女の関係を歌っているようでいて、本質的には「何かに強く惹かれてしまう人間の感情」を歌っている場合が少なくありません。

だから同じ曲でも、感じ方は十人十色です。

そして私の場合、その恋愛対象が「波」だったのです。もちろん、これは作者の意図ではないでしょう。しかし芸術作品とは、本来そうした人それぞれの解釈の仕方も許容すると思います。

サーフィンを始めたことで、私はラブソングを「男女の歌」ではなく、「人が何かに夢中になる様子」として受け取れるようになりました。

比喩とは、別の体験を通して、見方・考え方をアップデートする道具なのだと思います。

結局のところ、たとえ話とは、人の気持ちへの距離を縮めるためのものではないでしょうか。自分に経験のない感情も、似た構造を持つ体験を通せば理解に近づくはずです。だからこそ、私は興味の芽をなるべく無視しないようにしています。これまでにも様々なことに挑戦してきました。しかし、「得になりそうだから」という理由で始めたものはどれも長続きしませんでした。

一方でサーフィンは違いました。最初は「夏の思い出づくり」程度の軽い気持ちでした。強い情熱があったわけでもありません。それでも続けるうちに、楽しい、好きという感情が少しずつ育っていったのです。

もちろん、ずっと楽しいわけではなく、現実は大変なこともあります。

長時間かけて海へ行っても波がない日。

真冬の寒さに心が折れそうになる日。

思うように乗れず、眉間にしわを寄せながら不完全燃焼する日。

それでも海へ向かうのは、波に乗る喜びがそれを上回るからです。

サーフィンは、波に乗る技術だけではなく、人の感情を理解するための感受性も育ててくれました。

「たとえ話」を考えていたら、以前ライブで見たスティールパン奏者の相澤彩絵さんの笑顔を思い出しました。

演奏技術の高さ以上に、「心から楽しんでいる」ことが伝わってくるからです。

☞1st miniアルバム「例え話をしよう

サーフィンにおいても、上達することよりも楽しむことが何より大切だと思います。

私自身、過去の経験を振り返ると、楽しんでいるときほど、物事が自然とうまく運んだことが多いように感じます。

そして、興味を持ったことには積極的に飛び込み、失敗もしながら、いろんな経験を重ねることで、自分の中に新しい比喩を増やしていきたいです。

「たとえ話」によって、立場の違う人同士の心をつなげられたらいいなと思います。

 

 

 

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