Phase 2:実践【楽しむ】
Chapter 3:ゲットアウト
10.戻るために目印をつけておく
ゲットアウトとはサーフィンにおいて「沖に出る」ことを意味します。
サーフィンのイメージが固まったら、海に入ります。このとき、最初にやるべきことがあります。岸の目印を確認すること。木でも、建物でも、なんでも構いません。「自分がどこから入ったか」を把握しておかないと、流されていることに気づけないからです。
海の流れは、自分では感じにくいものです。気づいたら全然違う場所にいた、ということが実際に起きます。私自身、目印を確認せずに入った日、波待ちをしていたつもりが、知らぬ間に遠くまで流されていたことがありました。
文章も書いているうちに、最初に伝えたかったことから少しずつズレていくことがありませんか?これは書き手の意識が弱いからではありません。
たとえば、こんな文章があったとします。
「サーフィンは楽しい。海に入ると余計なことを考えなくなる。最近、道具を新調した。サーフボードの選び方は奥が深く、ショートとロングでは浮力がまったく違う。初心者にはロングが向いているらしい。」
読めます。でも、読み終えた瞬間に「で、何が言いたかったの?」となります。「楽しさ」の話をしていたはずが、気づけば「道具の解説」になっている。書いた本人は気づいていません。それが、流されるということです。
こういうとき、目印が効きます。書き始める前にメモしておいた一文を見返します。
「サーフィンが楽しい理由を、自分の言葉で整理したい。」
これに照らすと、道具の話は今回には関係ないとわかります。迷わず、削る。テーマに戻る。
「サーフィンは楽しい。海に入ると、仕事も悩みも意識から消える。目の前の波だけに集中せざるを得ない。その強制的な没入感が、サーフィンを特別なものにしている。」
同じ書き手が書いた文章とは思えないほど、芯が通りました。変えたのは、目印を見返しただけです。
目印は、戻るためにある。入る前に、必ず確認する。それだけで、文章は最後まで迷子にならずに済みます。
11.いい波に乗るために沖に出る
沖に出る目的は、ただ一つ。良い波に乗るためです。
岸で波を眺めているだけでは、波には乗れません。沖に出なければ何も始まらない。しかし同時に、「何のために沖に出るか」を忘れた瞬間に、行動は迷走します。
文章も同じです。書く目的は、大きく二つに分けられます。
一つは、自分のために書くこと。頭の中にある曖昧な考えを言語化し、「自分は何を考えているのか」を理解するために書く。思考の可視化です。もう一つは、誰かのために書くこと。自分の経験や考えを、他者に届けるために書く。これは「伝える」行為です。
この二つは似ているようで、まったく異なります。「言語化」は自分に向かう矢印。「伝える」は相手に向かう矢印。どちらを目的にするかで、選ぶ言葉も、構成も、削るべき情報も変わってきます。
たとえば、同じ体験でも目的によって文章はこう変わります。
【自分のために書く場合】
「今日の波は腰くらい。思ったより速くて、テイクオフで2回失敗した。テイクオフが遅いのかもしれない。次はパドルのときの指の揃え方を意識してみる。」
【誰かに伝えるために書く場合】
「テイクオフで失敗し続けていたとき、気づいたことがある。問題はスピードではなく、最初に滑り出す向きだった。波に乗ろうと焦るほど、テイクオフの時点で一気に波のボトムまで降りきってしまう。力を抜いて、横向きにテイクオフする。それだけで、波のトップに向かえた。」
前者は記録。後者は伝達。どちらが優れているかではなく、目的が違えば言葉の選び方が変わる、ということです。
書く前に、一度だけ問いかけてみてください。「これは誰に向けて書くのか。書き終えた後、自分は(あるいは読んだ人は)どうなってほしいのか。」
この問いに答えられる状態で書き始めること。それが、沖に出る前の準備です。良い波に乗るために沖に出る。その先には「楽しさ」があります。